大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和59年(オ)1178号 判決 1987年3月24日

主文

一  原判決中、上告人土居二三男、同山本実、同小河安則に関する部分、同菅井正に対する各被上告人の金員請求に係る部分のうち金五万一〇〇〇円について同上告人の控訴を棄却した部分、同金分伊に対する請求のうち第一審判決別紙第二目録(四)記載の建物のうちF-1の部分からの退去及び右部分の敷地部分の明渡請求につき同上告人の控訴を棄却した部分について、原判決を破棄する。右各部分につき本件を広島高等裁判所岡山支部に差し戻す。

二  上告人菅井正及び同金分伊のその余の本件上告を棄却する。

三  前項に関する上告費用は上告人菅井正及び同金分伊の負担とする。

理由

上告代理人一井淳治、同光成卓明の上告理由第一点及び第二点について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は原審の認定にそわない事由に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

同第三点一について

土地の賃借人が賃貸人の承諾を得ることなく右土地を他に転貸しても、転貸について賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があるため賃貸人が民法六一二条二項により賃貸借を解除することができない場合において、賃貸人が賃借人(転貸人)と賃貸借を合意解除しても、これが賃借人の賃料不払等の債務不履行があるため賃貸人において法定解除権の行使ができるときにされたものである等の事情のない限り、賃貸人は、転借人に対して右合意解除の効果を対抗することができず、したがつて、転借人に対して賃貸土地の明渡を請求することはできないものと解するのが相当である。けだし、賃貸人は、賃借人と賃貸借を合意解除しても、特段の事情のない限り、転貸借について承諾を与えた転借人に対しては右合意解除の効果を対抗することはできないものであるところ(大審院昭和八年(オ)第一二四九号同九年三月七日判決・民集一三巻四号二七八頁、最高裁昭和三四年(オ)第九七九号同三七年二月一日第一小法廷判決・裁判集民事五八号四四一頁、同昭和三五年(オ)第八九三号同三八年二月二一日第一小法廷判決・民集一七巻一号二一九頁参照)、賃貸人の承諾を得ないでされた転貸であつても、賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があるため、賃貸人が右無断転貸を理由として賃貸借を解除することができない場合には、転借人は承諾を得た場合と同様に右転借権をもつて賃貸人に対抗することができるのであり(最高裁昭和三九年(オ)第二五号同年六月三〇日第三小法廷判決・民集一八巻五号九九一頁、同昭和四〇年(オ)第五三七号同四二年一月一七日第三小法廷判決・民集二一巻一号一頁、同昭和四三年(オ)第一一七二号同四五年一二月一一日第二小法廷判決・民集二四巻一三号二〇一五頁参照)、したがつて、賃貸人が賃借人との間でした賃貸借の合意解除との関係において、賃貸人の承諾を得た転貸借と賃貸人の承諾はないものの賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情がある転貸借とを別異に取り扱うべき理由はないからである。そして、右の理は、仮換地の指定を受けた者が仮換地につき他の者とその使用収益を目的とする賃貸借類似の契約(以下「仮換地の賃貸借」という。)を締結し、その者が更に第三者と右仮換地の使用収益を目的とする賃貸借類似の契約(以下「仮換地の転貸借」という。)を締結した場合についてもひとしく妥当するものというべきである。ところで、本件記録によると、原審において上告人菅井を除くその余の上告人らは、被上告人らの本件換地の所有権に基づく本訴各請求に対し、その各占有部分(上告人金については第一審判決別紙第二目録(四)のF-1建物部分の敷地)についての占有権原として、(一) (1) 上告人菅井は、被上告人らの被相続人瀬崎正次(以下「正次」という。)から、昭和二六年ころ本件仮換地を賃借した、(2) 上告人土居は上告人菅井から本件仮換地を転借した、(3) 右転貸には正次に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情がある、(二) 上告人山本、同小河及び同金は、上告人土居が本件仮換地上に所有している前記目録(二)及び(四)の各建物の一部を賃借し、その各敷地部分を占有しているものである、(三) 本件仮換地は、そのままの位置関係で換地処分がされ、昭和五四年一月六日に本件換地となつたものであるが、前記正次と上告人菅井の本件仮換地賃貸借及び上告人菅井と上告人土居の本件仮換地転貸借に際しては、本件仮換地がそのまま本換地となつた場合はこれを賃貸借ないし転貸借する旨の合意が成立していたとの趣旨の主張をしていたものと認められる。しかるに、原判決は、右(一)(1)の賃貸借が昭和三〇年一二月一四日に合意解除されたことを認定しているが、前示の観点に立つて右抗弁の当否について審理判断することなく、被上告人らの前記の本訴各請求を認容した第一審判決を相当として、右各上告人の控訴を棄却しているから、原判決には判決に影響を及ぼすべき事項についての判断遺脱、理由不備の違法があるものというべきである。論旨は理由があり、原判決中右請求に係る部分は破棄を免れない。そして、右部分については上述の点につき更に審理を尽くさせる必要があるから、本件を原審に差し戻すのが相当である。

同第三点二について

原判決は、上告人菅井に対し、本件仮換地(昭和五四年一月六日以降は本件換地)の不法占有による賃料相当損害金として各被上告人に対して昭和三九年六月一日から昭和四八年一二月七日までは一か月七〇〇円、同月八日から昭和五六年三月三一日までは一か月一万二八三三円、同年四月一日から本件換地明渡に至るまでは一か月一万四三三三円の割合による金員の支払を命じている。

しかしながら、本件記録によると、上告人菅井は、原審第一五回口頭弁論期日において、被上告人らに対し本件換地の賃料相当損害金として昭和五六年四月一日から昭和五九年一月三一日までの分として一か月四五〇〇円の割合による金員を支払つた旨主張し、被上告人らも右期日において右金員を賃料相当損害金の一部として受領した旨陳述していることが明らかであるから、原判決には上告人菅井の右抗弁についての判断遺脱、理由不備の違法があるものというべきである。したがつて、論旨は理由があり、原判決中上告人菅井に対する各被上告人の金員請求のうち五万一〇〇〇円(昭和五六年四月一日から昭和五九年一月三一日まで一か月につき一五〇〇円の割合による金員の合計額)について同上告人の控訴を棄却した部分は破棄を免れず、右部分については、前記抗弁の当否につき更に審理を尽くさせる必要があるから、本件を原審に差し戻すのが相当である。

よつて、民訴法四〇七条一項、三九六条、三八四条一項、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 坂上寿夫 裁判官 伊藤正己 裁判官 安岡滿彦 裁判官 長島 敦)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例